塩飽大工とは、腕の良さで名を馳せた塩飽(しわく)諸島出身の大工の総称です。江戸時代から明治時代にかけて、中国・近畿地方の沿岸部を中心に活躍。船大工で培った高い技術力を生かし、社寺や民家など数々の建築を手掛けてきました。緻密で躍動感あふれる彫刻と、アールを付けた木材を巧みに扱う木組みの技に秀でており、建築から100年以上経つ今も当時と変わらぬ姿をとどめています。
北前船の寄港地として栄えた児島地区や、古くは海に囲まれていた倉敷地区にも、塩飽大工が手掛けた社寺が点在しています。いずれもコンパクトに見どころが集まり、1日かけてめぐるのに最適。見事な建築美を眺めたり、児島・倉敷のグルメやアートを楽しんだり。カメラを片手に、瀬戸内が育んだ建築美をたどるプチトリップに出かけませんか。
2016年10月8日〜11月6日
「瀬戸内国際芸術祭」とは、瀬戸内の島々で開催される現代アートの祭典。本島では塩飽大工をテーマにした作品があり、芸術祭終了後も展示されます。児島に点在する飽大工建築の見学の前後に、本島へも足を運んでみるのもいいですよ。
岡山県と香川県の間に浮かぶ大小28の島々からなる塩飽諸島。その中のひとつ・本島(ほんじま)は、塩飽水軍の拠点として栄えた島です。豊臣秀吉・徳川家康から領地を与えられ、幕府の御用船・御用船方にも任命。どの大名にも属さず独自の自治を確立し、全国でも珍しい海運王国を築くまでに。廻船業の隆盛は造船技術の発展につながり、多くの船大工を輩出しました。
しかし、江戸時代中期に廻船運航権を大坂の廻船問屋に奪われると、本島の廻船業は衰退。それに伴い、船大工も活躍の場を失い、宮大工や家大工へと転身しました。活躍の場を海から陸へと移し、塩飽大工としての新たな歴史がこうして始まったのです。
真っ先に訪れたのは、正応年間(1288~1293年)創建の古刹。総社市「備中国分寺五重塔」や香川県にある「善通寺五重塔」などを手掛けた名工・橘貫五郎による山門は、1828(文政11)年に寄進されたもの。貫五郎26歳の時の作品で、初代の作品が残るのは貴重と言われています。また、1827(文政10)年に再建された本堂も塩飽大工によるもので、随所に散りばめられた緻密な彫刻美は必見です。本堂の基礎に用いた基壇(石のこと)は、海を隔てて取り寄せたもので、今も塩を吹いているといわれます。
住所 | 倉敷市下津井田之浦2-3-22 |
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TEL | 086-479-9236 |
次に向かったのは弘泉寺からほど近い場所に建つ、児島八十八ヶ所第32番札所である観音寺。石段を上がると瀬戸大橋と塩飽諸島の島々を眼下に望む境内が現われます。その一角に、塩飽大工が手掛けた薬師堂が鎮座。1731(享保16)年に建てられたもので、緻密さが光る彫刻が随所に。塩飽諸島が織り成す絶景と、塩飽大工の彫刻美を一度に楽しめる高台の寺院です。
住所 | 倉敷市下津井吹上1-2-12 |
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TEL | 086-479-9496 |
北前船や参勤交代の港町として栄えた下津井で、古くから「下津井の祇園さま」で親しまれている名社。長浜宮と祇園宮の2つの御本殿を持つ珍しい形式で、長浜宮が塩飽大工の手による建築です。1804(文化元)年に改築された長浜宮御本殿は、塩飽棟梁7人が腕を振ったといわれ、中央が弓型になった唐破風造りの屋根、緻密で精巧な彫刻などに、高い技術力と美意識がうかがい知れます。
住所 | 倉敷市下津井1-13-16 |
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TEL | 086-479-9468 |
江戸時代から明治時代にかけて、北前船の寄港地として賑わった当時の回船問屋を復元した資料館。母屋やニシン蔵などに生活用品や商いにまつわる品々を展示し、下津井の歴史と文化をわかりやすく紹介。食事処や海産物販売所も併設しています。
住所 | 倉敷市下津井1-7-23 |
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TEL | 086-479-7890 |
営業時間 | 9:00~17:00(最終入館16:30) |
入館料 | 無料 |
定休日 | 火曜(祝日の場合は翌日) |
館長や学芸員はおらず、地元の人やアーティストの協力によって運営する私設美術館。1階では新進気鋭のアーティストによる個展を季節ごとに開催するほか、2階では全国・国際的に活躍する、倉敷・岡山にゆかりのある作家の作品を常設展示。
住所 | 倉敷市下津井吹上1-3-9 |
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TEL | 050-6865-2539 |
営業時間 | 土・日曜の10:00~17:00 |
入館料 | 500円(小学生以下は無料) |
定休日 | 月~金曜 |
HP | 吹上美術館 |
JR児島駅から徒歩5分の場所にある児島観光港と、塩飽大工ふるさとの本島を結ぶ定期船。運航中に瀬戸大橋をくぐり、下から見上げる橋の迫力は圧巻。一日4往復し、片道約30分。
TEL | 086-473-6777(児島観光港) |
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HP | むくじ丸海運 |
JR児島駅を起点に、児島・下津井・鷲羽山地区を1時間かけて1周するループバス。1区間160円~260円。便利でお得な1日乗り放題券510円もあり、バス車内で購入可能です。
TEL | 086-472-2811(下電バス児島営業所) |
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HP | 下津井循環線 とこはい号 |