備中杜氏の郷 ②~玉島
「さす竹の 君がすすむる うま酒に われ酔いにけり そのうま酒に」(良寛)
玉島円通寺にゆかりの深い良寛さんの歌です。
美味しいお酒をすすめられ、心地よく酔ってしまわれたのですね。(五合庵の頃)円通寺での厳しい修行時代には、玉島のお酒を召し上がったことがあったでしょうか。
そんなことを思いながら、円通寺に出かけました。 雨上がり、緑が一段と鮮やかです。
円通寺から見下ろす玉島仲買町は、仲買人たちが店を構えたのがはじまりです。造り酒屋や紙屋、味噌醤油屋など江戸時代からの商いが今も続いています。古い町並みの一角に、菊池酒造があります。
現在、玉島で日本酒を製造しているのは、菊池酒造のみです。
江戸末期、菊池酒造がまだ酒屋を始める前のこと、菊池家の6代目となるはずの次男が学問を志し、近藤万丈と名乗り江戸に出て国学者になりました。奇遇なことに、旅先の土佐で放浪中の良寛さんに会ったそうです。万丈の書「寝覚めの友」に逸話が残っています。
菊池酒造の当主で杜氏でもある、菊地東さんはオーケストラの指揮をされる音楽家です。モーツアルトの音楽の流れる蔵で作られる「燦然 大吟醸酒」をはじめとする日本酒は、国内外で数々の賞を受賞しています。
海外の多くの国で和食の人気が高まっている中、菊池酒造では海外にも日本酒を輸出し美味しく楽しんでもらえるよう努めておられます。
玉島にも、備中杜氏の功績を讃える記念碑があります。
玉島上成の上成稲荷神社の「牧君紀功碑」です。
明治40年、「第一回全国清酒品評会」が開催され、玉島の牧酒造場の酒「三角正宗」が優等5等を受賞しました。杜氏は里庄町の平野利八で、これを機に備中杜氏の名は一躍全国的に知れ渡りました。
上成稲荷神社の「牧君紀功碑」(昭和15年) 柚木玉邨の撰書
今年5月、岡山市内で備中杜氏組合主催の、「第100回備中杜氏自醸酒品評会」開かれました。 第1回目は、明治42年、玉島で開催されたそうです。大正期に540人いた備中杜氏は現在26人になりましたが、次世代へ向けて備中流の技術伝承と発展に努めていかれることでしょう。
地元の原料を用い、地元の風土の中で、地元の人間が造る酒。 そんな地酒の美味しさを、地元はもちろん、倉敷に観光に来られたお客様にも名物料理とともに味わっていただきたいですね。
参考文献 岡山の酒 (小出 巌 ・ 西原礼之助 著) 日本文教出版社
岡山の酒 (岡山酒造組合連合会協賛) 山陽新聞社
備中杜氏 今昔物語 (水辺のユニオン) 山陽新聞社