「近代化遺産」
産業考古学会創立40周年記念・「一輪の綿花から始まる倉敷物語」日本遺産認定記念「近代化遺産」のシリーズ講演会の第1回目が、「岡山における近代建築の保存と活用」と題し、7月15日(土)に倉敷市立美術館講堂にて催されました。
講師はノートルダム清心女子大学教授の上田恭嗣氏で、旧旭東小学校付属幼稚園や、旧日本銀行岡山支店(現・ルネスホール)、旧第一合同銀行倉敷支店等の近代建築の保存活用に携わって来られた方です。
氏が教鞭をとられている「ノートルダム清心女子大学」も戦時中、戦争から自分たちの学校を守る為に、校舎にコールタールを塗る活動が行われ、その学校が現在でも教育施設として使われているという点でとても貴重です。
岡山、倉敷の近代建築は、岡山県工師である江川三郎八と建築家薬師寺主計の2人の存在がとても大きいです。
まず、江川三郎八(1860-1939)ですが、八角形にこだわりを持ち、擬洋風建築に特色があります。設計の代表的なものに、旧遷喬尋常小学校舎(真庭市)、総社警察署(現・総社市まちかど郷土館)、閑谷学校資料館(備前市)、旧旭東小学校付属幼稚園園舎(岡山市)、高梁市立吹矢小学校(旧吹矢尋常高等小学校本館)、旧倉敷町役場(現・倉敷館観光案内所)などがあります。
次に、薬師寺主計(1884-1965)ですが、大原孫三郎の依頼により第一合同銀行倉敷支店(現・中国銀行倉敷本町出張所)の設計に携わりました。他に、倉紡中央病院(現・倉敷中央病院)、第一合同銀行本店(中国銀行旧本店、現存せず)、旧倉敷市庁舎(現・倉敷市立美術館)、大原美術館(現・大原美術館本館)、有隣荘などの、大原家の関わる施設を中心に多くの建築を手がけました。
また、大原孫三郎の長男である大原総一郎と、薬師寺主計の弟子である浦辺鎮太郎が意思を引き継ぎ、現・倉敷公民館や倉敷国際ホテル、大原美術館分館などを手がけました。
倉敷美観地区とその周辺の近代建築物のほとんどが、大原家が構想したまちづくりを、建築家が体現し、残されていると言えます。そんな点に注目し、倉敷のまちを散策されるのも興味深いと思います。
講師の上田氏は、なぜ近代建築の保存活用が必要なのかについて、人の手による作品であり、2度と造れないこと、1品生産の代物であることを挙げられました。実際、大正11年に建てられた中国銀行倉敷本町出張所などは、壁にはレンガ、天井は木造、コンクリートも使われている混構造で、その建物を再現することは不可能に近いことなのだそうです。
また、建物は地域の顔だと言われ、建てられた地域には素晴らしい文化があって、かつて繁栄していたという証し、その土地に誇りを持って欲しいと話されていました。
シリーズ講演会第2回目は9月2日(土)13:00~15:00倉敷市立美術館講堂にて、「土木遺産の保存と活用」と題し、岡山大学準教授・産業考古学会評議員の樋口輝久氏が講演されます。ご興味がある方はぜひご参加下さい。
また、知的観光の町「倉敷」へぜひお越し下さい。