旧野﨑家住宅を訪ねて
むかし児島は、「吉備の児島」と呼ばれる瀬戸内海に浮かぶ島でした。
1300年前に編さんされた「古事記」の国生み神話によれば、大八島(淡路島、四国、隠岐、九州、壱岐島、対馬、佐渡島、本州)に続く9番目の島として、誕生しました。
児島では、4~7世紀の古墳時代から製塩が行われていました。当時、海水を煮詰め、濃い塩水を作り、それを師楽式(しらくしき)土器と呼ばれる製塩用の土器に入れて火に掛け、水分を蒸発させて塩を作っていました。
児島は、「万葉集」にも重要な塩の産地として登場します。
その児島で製塩業により財を築き、塩田王とまでいわれた人が誕生します。
野﨑家初代当主、野﨑武左衛門です。
武左衛門は、1829年、晴天日数が多い児島で、塩の干満の差を生かして、入浜式塩田開発を進め、大量の塩を産出するとともに、全国の製塩業の中心的な役割を果たしました。
その歩みが知りたくて児島駅から徒歩15分、児島ジーンズストリート(味野商店街)に面した国指定重要文化財の旧野﨑家住宅を訪ねてみました。
倉敷市児島阿津走出(あつはしりで)遺跡で見つかった製塩土器だまり
復元された師楽式土器 (岡山県古代吉備文化センターのサイト使用)
http://www.pref.okayama.jp/kyoiku/kodai/kodaik.htm
http://www.pref.okayama.jp/kyoiku/kodai/child-ibutusyokai.html
入浜式塩田の説明
入浜式塩田は、江戸時代初期から昭和20年代まで
続けられました。
玄関の長屋門から入り、奥へ進むと、「商人のお城」といわれる土蔵群があり、手前から内蔵・大蔵・書類蔵・新蔵・岡蔵(展示館)が並び内蔵の後方には夜具蔵が配されています。
野﨑家塩業歴史館として利用されている大蔵には、江戸時代からの貴重な調度品や生活用具や他国の岩塩も展示されており、製塩の歴史を学ぶことができます。
「商人のお城」といわれる土蔵
庭内には草庵茶室と呼ばれる三席の茶室があります。その中の一つ「臨池亭」の周りにある石は島、苔は池を象徴しているそうです。この空間の中にいるだけで、心が癒されます。
玄関の長屋門は、豪華で敷地面積約3000坪にふさわしい御成門です。長屋門の中には、塩に関する資料やテレビドラマ「犬神家の一族」のロケ地として使用された際の写真などが飾られています。
旧野﨑家住宅では、貴重な展示品の数々や、水滴により琴のような音を発生する水琴窟や中座敷、表書院、草庵茶室などが公開されており、日本の伝統文化の奥深さに触れることができます。
水琴窟(すいきんくつ)。日本庭園の装飾のひとつで、水滴により琴のような音を発生する仕掛。小さな穴の開いた瓶を逆さに伏せた状態で、土中に埋め、底は水が溜まるように粘土などで固められている。地上に置かれた手水鉢(ちょうずばち)から流れ落ちる水が瓶の穴を通して滴り落ちるようになっている。
7月27日(金)から9月16日(日)まで、野﨑家公開25周年を記念して「さまざまな龍」展示会が岡蔵(展示館)で開催されました。
この「さまざまな龍」の展示会は、今年の干支が辰年で、三代目の野﨑武吉郎の号が「竜山」であり、龍がモチーフとされて多くの場面で使われていること、また児島地区には竜王山、竜王保育園など竜にまつわる地名や施設名が多いことから企画されたそうです。
旧野﨑家の敷地内にある塩づくり体験館では、「塩づくり体験」もできます。時間は午前10時と午後2時からとなっています。
現在、屋敷内各所では、「野﨑家の屏風展」が開催されています。春にはお雛の展示会が開催されます。是非訪れて、児島の塩づくりの歴史、日本文化の粋に触れてみて下さい。